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【壱】

 昨日、“東京アンダーワールド”読み終わった。今まで小説で、最近流行りのノワールっ
て呼ばれてる本を何冊か読んだけど、こっちの方がよっぽど面白かったのは何故か? 事実
は小説より奇なりってヤツか。

 昔も今も政治家、ヤクザ、大企業、聖職者、実業家、警察、官僚、スポーツ&芸能界──
要するに、金と権力、ある種の有名性が発する所に棲息する方々は、ほとんどみんな犯罪者
しかいないって気分になっちゃうような本だった。これからしばらくは、そう思ったままに
なりそうだ。
真っ当な人間は自分ぐらいしかいない!──なんてね(そりゃないけど)妙な妄想に取り憑
かれちゃったりして。

 力道山という人が刺殺された時、わたくしはまだ八才だったらしいからほとんど何も知ら
ないけれど、漠然とつい最近まで持っていたイメージは、高潔なヒーローとかそんな感じで
あってホントに「何だこりゃ?」──って、狐に摘まれたような気分だ。ほとんどイカれた
凶暴なヤク中じゃありませんか! ショックというより(ファンでも何でもないもんね)笑
え過ぎるだろ、おい! って思わず突っ込み入れたくなっちゃうじゃないの。

 “アメリカン・タブロイド”読んだ時と読後感が何となく似てるんだよなあ──もっとも、
あれはノンフィクションではないけれど。でも実在の人物はうじゃうじゃ出て来てたし JFK
なんて髪型以外には取り柄のないただの女好き(!)、フーヴァー長官も権力の座に居座り
続けるためならどんな汚い事だってやっちゃうぜ親父だし、大富豪ハワード・ヒューズもヒ
デエなんてもんじゃないし──悪過ぎる奴等が、あまりにもテンコモリ状態で、次から次へ
とボウフラみたいに湧いて出て来るから、もう笑うしか無くなってしまったのでありました。
オツムがマヒしてしまいますわ──こんなのばっかり読んでると! 反省しよう──(って、
もちろん止められないけれど)

 さてさて、後に控えてるのは“飛蝗の農場”“死は我が隣人”“最高の悪運”の三冊の本
──どれから手をつけようか、あまりにもバラバラで悩む所ではある。

 新聞の読書欄で見て、面白そうな気がしたのと、変なタイトルが気に入って買った一冊め。

そうそう、カヴァーがバラ線だったのも大きい──何故かわたくしは妙にバラ線に惹かれ
るモノがある。懐かしい、親しい、そういう気持ちを呼び覚まされる。

 わたくしの子供時代には、あちこちに荒れた空き地やバラ線があって、よくそれに引っ掛
かって怪我したり、洋服を破いたりしたものだ。とにかく、そこいら中を駆けずり回って遊
び呆けていた気がするもんなあ。最近、道歩いてても全然見かけないよね、バラ線って──
何で? 
 心理的な魅力だけではなく(世界に向かって尖った先端を突き出しているという)フォル
ムそのものがわたくしの眼を悦ばせてくれる。線的な要素がとても強いから。ザクザクして
たりひん曲がってたり無闇矢鱈に絡まってたりする線の動きが、実に美しい! 今度、失わ
れたバラ線を求めて──街を彷徨い歩こうかなっと。

 他の二冊、モース主任警部モノとドートマンダーものは、その気がなくても、本屋で偶然
うっかり見つけてしまうと、衝動的に買ってしまわずにいられない、そういう類いのシリー
ズだ。モースのラス前のこれは、TVでは視たけれど、本の方は唯一まだ読んでない一冊だっ
たので、まあ中身は分かっているけれど──でも、楽しみは楽しみ。

 そしてドートマンダー! 今年に入ってから、本当に久しぶりにTVで“ホット・ロック”
視た時には、まさかこれが原作のあるシリーズものだなんて知りもしなかったのに、そのほ
んの二、三日後に本屋で何かないかなと文庫本を物色中に見つけてしまったのは、今考えて
も不思議で仕方がない。

 ドナルド・E・ウエストレイクっていう名前のせいだ。んん? これってあの“斧”の作
者の名前じゃん、と思って手に取ってみたらなんと!──ドートマンダーなんて一度聞いた
ら忘れない妙な名前の原作者だったとは! 驚き桃ノ木としか言い様がないではありません
か。正直、“斧”は今いちピンと来なかった──期待してたわりには、何かなあああって感
じで。だからその時、思わずそこにあった三冊みんな一遍に買ってしまったのは、やっぱり
“ホット・ロック”のお陰なのだ。

 初めて視た時、ロバート・レッドフォードには何の興味もないけれど、カーキチのスタン
・マーチをやったロン・リーヴマン見たさに、ヤケに熱心に視た映画だったのだから(でも
この映画では、やたらとセコい胃弱のジョージ・シーガルも面白かったけど)──でも、こ
れはホントに見つけてよかった。原作シリーズ、痛快至極、面白い。しかもまだまだ一杯、
読んでないのがあるみたいだから! 絶版になっちゃったモノも何とかまた出してもらいた
いものだ。

 こういう事があるから、本屋をウロつくのは止められません──何の目的がなくても、ね。
もっとも最近は働きに出る時の行き帰りと休憩時間しか読めないから、文庫本ばかりだけど
桐野夏生なんてなかなか文庫本にしてくれないから、読みたくても読めないモノがどっさり
あるなあ──他にも何だかんだと、ねえ。

【弐】
 
“飛蝗の農場”読みはじめた。面白い感じはあるけど、まだ分からない──全部、読み終
わってみないと。こういうのって、途中は良かったのにってヤツもままあるよくある、から。

 それはともかく、このほんの一週間ぐらいの間に、“嘲笑う闇夜”“郵便的不安たち”
“ミスターX”──という新たな文庫本が出ている事を発見。すぐにさっさと買わなくちゃ
ならない! と妙に焦ってしまった。読まなくちゃ!──って別に義務でも何でもないのに、
そう思い込んでる自分って何なんだろう?

 忙しいんだから、本ばっかり読んでる場合じゃないんだけど──何故か、変にこれは読ま
なきゃならんのだと決めつけてしまわずにはいられない類いの本って、あるなあ。

 プロンジーニと東浩紀はまだ読んだ事がないから、今度が初めてになる。でも、ピーター
・ストラウブは、名前を聞いた途端に「おっ、久し振り!」という嬉しい気分が現われた。
それは例えば、カール・ハイアセンやジョン・カッツェンバックの名前を聞いた瞬間に感じ
るソレと同じ嬉しさだ。この名前を見つけたら、とにかく手に入れなきゃって──反射的に
思い込むそういう何人か、の一人。

 何と言っても“ココ”──今までに読んだサイコ・ホラーの中で、一番印象に残ってる小
説がこれ。おぞましい、と言うコトバがあんなにピッタリくる本って、まだ他に読んだ事が
ないんじゃないかな? 

 亡霊でも、魔物でも、妖怪でもない──おぞましいのは、やっぱり人間だ、それも活きて
るヤツ。あんなにおぞましい人間がいるという事をくっきりと見せてくれた。もちろん、犯
人ではなく──犯人は真っ当な、一番神経がちゃんとしてる人間だったような印象がある。
でも、読んだのは随分前だから、かなり怪しい記憶なんだけど。

 サイコものはホントに一時期やたらと蔓延ってた──でも、いつまでも忘れないモノって
ほとんど無い。あんまり沢山出回ると、どれも似たり寄ったりでパターン化してしまうのだ
ろうか?──おぞましいというコトバでパッと思いつくのは、他には“ゴールデン・ボーイ”
ぐらいのものだ。あれも、かなりゾワゾワ来た。忘れられない。

 日常の物凄いスピードの只中では、読む本読む本片っ端から忘れ去って行ってしまうけど、
本当にたま〜に、意識のある限り忘れ去る事はないだろう、と妙に確信してしまうモノに出
喰わす事がある──まだまだこれからも、そういう事は必ずあるだろうから。行かなくちゃ。
ずうっと探して、探して捜して。行かなくちゃ。

【参】

 ドートマンダーは、相変わらず面白い──特に、色々な言い回しが実に憎い。例えば、ど
こかに訪問しに行こうと誘われた時、それがチョロイもんだと言いたい時に、「ダイエット
に失敗するより簡単さ」などと言う。電車の中で読んでいて思わず笑ってしまう事度々で、
最近のわたくしはさぞかし気持ち悪いヤツになってしまっているだろう。

 これからが一番面白いところに差しかかっている──仲間がぞくぞくとラスヴェガスに集
まりつつある真っ最中──何となくもうすぐ終わってしまうのが惜しい気もするんだけど。
でも、どんどん行ってしまうのである、加速度がついてしまっているのだから。

 “飛蝗の農場”は、期待外れだったなあ──それこそ文字通り“バッタノノウジョウ”が
出て来たあたりは結構ゾワゾワ来るモノがあって、このイメージが、一体どんなおぞましい
展開に生かされるのか? と思って読み進んで行ったのに、拍子抜けも甚だしい事この上な
い──ほとんど全く生かされてなかった、せっかくの魅力的なイメージが! 

ホントになかなか、ないもんである──途徹もなく面白い小説って。そうそう、出て来る
もんじゃないってことなのかなあ?

【肆】

 マーク・マーフィーとゲイリー・ピーコックの大好きなCDをやっと手に入れた。「ミッド
ナイト・ムード」と「テイルズ・オブ・アナザー」──随分、探した。

 MMは無闇に歌が上手い、ちょっと嫌味なぐらいだけど、もう、ホントに快楽である。スリ
ルと快楽、これがジャズを聴く時の一番の条件。GPも最高に気持ちがいい! 最近、Macに
向かっている時はずうううっと聴きっ放し──しばらく、音楽のない日々を送っていたから、
飢えていたのだろう。少しづつ、わたくしのライブラリも充実しつつある。

 でも、「山下洋輔イントロデューシング国仲勝男『暖流』」が、見つからない。5年前に
限定版18枚組で出たらしいCDの中の一枚だから、やっぱり今それだけ手に入れるということ
は無理なのかなあ──中古CD屋もあちこち探しまわってはみたけれど、全然見つかる気配が
ない……哀しい。

 欲しいモノがどれも古過ぎるってのも、一因のようだ。わたくしの音楽の嗜好は20年前で
止まってしまっているみたいですね──あっ、でも、最近偶然知ったノラ・ジョーンズは結
構、いいな、と思った。ちょっとダルくて、眠たそうで、煙ってて──この人はバリバリの
今の人だわ。ホリー・コールの方がもっとずうううっと好きだけど。

 エラ・フィッツジェラルドやサラ・ボーンは、声がホントにキュートと言ってもいい程に
魅力がある。いくら聴いても聴き飽きるということがない。そういう歌手にはもっともっと
沢山出会いたいものだ。ジャズと本があれば、わたくしは活きて行ける──と、信じている。
どういう訳か、いちばんの快楽だと、頑なに思い込んでいる、らしい。という言い方は、妙
だけど。

【伍】

 久しぶりに本屋をうろついた時、何と懐かしいヴォネガットの出たばかりの“タイムクエ
イク”を発見。しかもその日が発行日という偶然。しかも印刷日が丁度ホームページを立ち
上げた日だったというのも妙に印象的──やっぱりヴォネガットとは縁があるのだとすぐに
思い込む。すぐ購入。“さらば愛しの鉤爪”も、前から読んでみたかったので一緒に。これ
は笑えた。こういうのをバカミスというのだろうか?──カール・ハイアセンもそうらしい
から、多分そうなのだろう。となると、わたくしはバカミスばかりを好き好んで読んでいる
模様……。もうとっくに出てる二作目“鉤爪プレイバック”も近いうちに手に入れよう。

 ヴォネガットはかなり久しぶり──10年以上経ってるかも知れない。何となくパッとすぐ
読めないのは何故だろう。心の準備がいるような気がするという、自分自身の内部の奇妙な
こだわりを感じる。この人は特別なのだ、という思い込み。それは、場合によってはつまら
なかったらどうしよう……という気分もちょっとだけある、ということも含まれている。ま、
読んでみないことにははじまらないんだから。


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