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【陸】

 エラやサラ、トム・ジョーンズにマーク・マーフィー、シナトラ、サッチモ、メル・トー
メにフレディー・マーキュリーなんかをシャッフルモードにしてずうっと聴いているとつく
づく、フレディー・マーキュリーという人は声が奇麗だと思う。線が細いという感じさえす
るぐらいだ。他の人達は、声がもっと野太いというか、しっかりしている。早死にしたのも
無理は無い──って、違うか。でも、そう感じたのはつい最近のことだ。以前は、そんな風
には全く聴こえてはいなかった。

 でも、その声の奇麗さは、もしかしたら、本人にとってはある意味、コンプレックスだっ
たかも知れない。それで、最初の内は派手派手なメイクやケバケバしい衣装で武装していた
とか?──これは全くのわたくしの憶測、単なる思いつきでしかないけれど。それにしても
ボヘミアン・ラプソディの出だしの囁くような響きなんて、おいおいどうなってんだ、あん
たはほんとにロッカーか?!──とわたしは言いたい。すなわち、わたくしはそれぐらいロッ
クに偏見を持っているのだな。単純過ぎるリズム、ってやっぱりどうにもかったるい。でも
それが大勢の人間を一気に乗せるには非常に重要な要素である事は確かだ。武道館、ドーム
その他諸々の大きい会場を満杯にするライヴというのがステータスになるのだから。やたら
と数をたのむ所がある──そういう点は、特に毛嫌いする理由でもありそうな……。まあ、
一種の祝祭、非日常のハレの場で、普段のうっぷんを全部吐き出して大いに騒ぎ、抑圧され
たエネルギーを噴出させるにはうってつけの機会(時空的に極めて限定された)と思えば、
凄く納得出来る──そのためには、リズムやメロディーが複雑過ぎたり、イリーガルであり
過ぎたら、これはいけません。

 ライヴとCDは、結局全くの別物──例え、同じ曲、もちろんライヴ盤のCDであっても。
だからこうやって聴いていると、純粋に声そのものが直截に聴こえてくるので、意外な発見
があったりする──あまりにも、奇麗で線の細いフレディーさんの声。キュートなエラと、
野太くて色っぽいサラ。トムは声の中に空気がたっぷり入ってる(?)感じ……訳分からん
けど、器がたっぷりしてるというのかな──包容力があるという言い方は、どうもしっくり
来ないけど、多分そうなのだろう。マーク・マーフィーは、ちょっとハスキーで、結構トン
ガっている(俺は上手いぞって声が言ってる──これは若い頃のだからかも知れない。最近
のを今度ぜひ、聴いてみよう)そして、所々心地よい甘さも。これがあるから、麻薬のよう
に聴き続けてしまうのだね──でも、この少しづつ香りや味の違う甘さは魅力的な歌い手な
ら誰にでも備わっている必要不可欠な要素に違いない。

【七】

 「アリス」は、読んでいて随分色々な事を考えさせてくれる本だった──わたくしが、常
日頃ああでもないこうでもないとぐるぐる何だか同じ所ばっかり回っていて、一向に深化す
る気配のないあれこれ──世界=景色と意識のこと。いわゆる人間社会ではない世界そのも
の、全ての物/事が現れては消え、また現れては消えて生成と消滅を繰り返し続けている、
わたくしを無限に取り囲み、決してそこから外側へと脱け出る事の出来ないこの世界=宇宙
とは一体何なのか?──いくら考えてもいつまで経っても一向に答えの出ない、この奇妙奇
天烈な巨大な内部の本当の姿とは……? んんんんん〜、分からん!(何やってんだか!)

 イデオ・サヴァンというのは、いわゆる自閉症や発達障害児などに比較的多く現れる能力
らしい。一度視たらそのまま正確に記憶してしまう直感像や、聴いた音をそのままそっくり
再現してしまう音楽的能力、17桁もの素数を大して時間もかけずに解る数学的能力などが、
代表的な現象(?)らしいが、多くはそれだけに特化されていて、他の何かに役に立つとい
う事ではないので「才能の孤島」と呼ばれているとか……。彼等は、そのままではいわゆる
社会に適応出来ない。基本的に外界に一切の関心を持っていない、ように見受けられるとか。

 眼に視えている世界が、いわゆる普通の人間とは全く違っているのではないかと推測或い
は想像されているもののようだ──「アリス」で描かれている、いわゆるわたくしたちの生
きている一次元的世界には何の関心もないと言うよりも、見えていないといった方がアタリ
なのかな……。関心がないと言う事は執着もないと言う事で、そういう存在がホラーの、し
かも恐怖を与える側にはなりようがない。何故なら、ホラーとはどちら側も、この現実社会
にしがみつき、ココ以外には生きる場所がなく、途轍もなく烈しく執着している意識がある
からこそ成り立つ物語なのだから。

 悪魔、幽霊、妖怪変化、魑魅魍魎、もちろんただの人間──どいつもこいつもこの世界に
異常なまでに執着し、例えばあんなに凄い能力があるんだから、人間社会を征服するなんて
セコい野望なんて持ったってしょうがないんじゃないかと突っ込み入れたくなる悪魔とか、
あんまり酷い理不尽な殺され方をしたがために、ずううっと現世に恨みを持ったままで成仏
出来ないお岩さんたち、ひたすら地位や名誉や金に固執し、現在の生活から引っ剥がされ、
破壊され、何もかもを失う事を恐れるあまりに呪いをかけたり、かけられたりする人間たち
──がどっさり或いはちょっぴり出ないとホラーにならない、なりようがないじゃん!

 わたくしが最初に読んでいて異和感を感じたのは、どうもそこら辺だったようだ。

【捌】

 わたくしは、以前から「世界を丸ごとざっくりと鷲掴みに捉えたい」という欲望がある。
どんな時もどこにいても、常に今ココでしか有り得ないのが人間の存在の仕方であるにして
も、それでも全く知らない場所の(時代だって今ではないかも知れないような)見知らぬ誰
かの意識を、同時にしっかりと感じたい──とは言え、超能力者ではないのだから、それを
想像力でやるしかないのだけれど──しかも、それを画面やコトバで自分の眼に視えるよう
に、現したいと思いながら、あれこれ試行錯誤してやって来た。

 しかし、それははなっから不可能なのだと、まあ面と向かって宣言されたようなものなの
が、この「アリス」での、一次元的世界観というモノだった。最初は、「一次元的世界観の
中にいる」ということの意味が分からなかったのだけれど……。

 例えば、現実の世界で道を歩いていて、すぐ横を真っ赤な車が走り抜けて行ったのを視た
時に、視覚や身体では、それを一気に感じることが出来るが、もしそのことをコトバで表そ
うとしたら「赤い、車が、走っていた」と一つ一つの要素を順番に並べて行くしかない──
この一瞬の出来事を何とか伝えようとして「走っ車いてが赤いた」などとは言わないし(こ
れでも、時系列に縛られている!)──無理矢理、何が何でも一瞬の出来事であることを言
いたいがために、この9文字全てを一ヶ所に重ねて書いたりしたら、これはもう全く訳が分
からないゴチャゴチャに重なった線の抽象画みたいなモノになってしまい、意味も通らない
し、何も伝えることが出来ない。

 しかし、ほとんどの人間はコトバでしか生きていない──意思の疎通を図る為にも、自分
のことを認識する為にも、この長い長い歴史の中で「はじめにコトバありき」と言うぐらい、
全てはコトバに支配され、世界はコトバで成り立っている──一度に、一つのことしか示す
事の出来ない、とても不便でもどかしい見事なぐらい一次元的な「コトバ」で。だから、脳
も完全にそうなっちゃっているということだそうだ──なるほど。

「アリス」は9.7次元に生きている。その世界観は、とうてい普通の人間には理解不能であ
るばかりか、音的にも人間の聴覚が耐えられる限界範囲をあまりにも超えている為に、アリ
スが自分の世界を表現したその時その場に居合わせた人間は、いともあっさりと破壊されて
しまう──恐ろしく沢山の人間が死に、運良く(運悪く)命拾いはしても、もう2度と今ま
での場所には戻って来れない、行きっ放しになってしまう。悲惨である。やっぱり、この一
次元的世界にしがみついて生きるしかない人間にとっては、これはホラーってことになるの
かなあ?……う〜んんん。しかしながら、これがホラーかホラーでないかは実はわたくしに
とってはどうでもいいことなのだった。


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